[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
良薬は口に苦し パタン
「光流。薬と水、貰ってきたぞ」 「あ~~」
寮の部屋に設置された二段ベッドの下 つまり忍のベッドから聞こえた光流の声は力の無い非常に情けないものだった。 熱で潤んだ瞳を薄っすらと開けて、あ~ったくちきちょう~等と小さく呻いている。
「・・・・・・彼女、帰るらしいぞ」 「あ?帰るって・・・え、えぇ?!」 「蓮川が家まで送って行った。もうすっかり暗いからな。 女性を一人で帰すなんて無粋なマネをしなかったのは、あいつにしては中々上出来だ」
忍はそう言いながら水の入ったカップをコトンと机の上へ置き、薬を手に取り封を切る。 光流はのろのろと起き上がり、熱の所為で焦点の合わない目をゆっくりと忍へ向け立ち上がった。
「おれ、心配だからちょっと見てくるわ」 「ばかかおまえは。薬を飲んでおとなしく寝ていろ」 「や、・・・でも」 「おまえ、自分が病人だという自覚はあるのか?それに」
わざとらしく溜め息を吐きながら忍は光流の前へ歩み寄る。
「それで立っているつもりだろうが、立ち上がれていないぞ?」 「へっ?」
心底呆れた顔をした忍の目の前で、光流はベッドに腰掛けたまま立ち上がろうと足に力を入れた体勢の姿で止まっていた。 ひと眠りし、学校を早退した時よりは症状は治まっていたが立ち上がれないのでははなしにならない。
どうしてこいつは自分の事より他人の事ばかり気に掛けるのか
忍は光流に気付かれないように小さく息を吐くと、机の上に置いたカップへ手を伸ばした。
「光流」 「ぁ、あっ?」
名前を呼ばれ顔を上げた光流は、思い切り胸倉を掴まれ上を向かされる。 忍の行動と、近過ぎる程近付いた彼の端整な顔に
光流の発した声はそれごと飲み込まれてしまった。
ごっくん
「・・・げーーーっ!!な、なんだよ忍これっ」
口の中に広がった独特な苦さと、喉に張り付いたような粉薬の後味の悪さに光流は思い切り顔を顰めた。 忍はカップに残った水を全て口に含むと、目の前で苦虫を潰した様な顔をしている光流の顎に手を添えて再び上を向かせる。 えっ、と死ぬほど粉薬が嫌いな光流は目元にうっすらと涙を浮かべて顔を引き攣らせたが、そんな事はお構いなしに忍は先程と同じ様に光流に水を飲ませてしまった。
「~~ばかやろー」 「おまえがおとなしく薬を飲まないからだ」
明らかに違う意味で熱が上がってしまったような表情の光流は、腹を立てながら忍の枕に顔を埋めて脱力しきっている。 そんな様子の光流を目を細めて緩く微笑みながら見遣って、忍はポンと軽く光流の頭を叩いてやった。
「泣きながら薬を飲んだおまえに免じておれが蓮川達の様子を見て来てやろう。 そのかわり、その間おまえはきちんと寝ていろよ、いいな」
命令系な口調でそう告げると忍は上着を手に取り部屋のドアノブへ指を掛けた。 ベッドに沈んでいる光流の姿を一瞥すると あんまり手間を掛けさせるなよ、と小さく呟いてドアの向こうへ消えて行ってしまった。
「わーってるよ、ばぁか」
忍の姿が消えたドアを暫くの間眺めた後 消え入りそうな声で呟きながら、光流はその重い瞼をゆっくりと閉じた。
end
20080918 byめぐむ
わりと良くあるネタ(薬の飲ませ方/苦笑)。 だってあの忍がスカの為にわざわざ後を追い掛けるなんて、ねえ? こんな妄想しても良いじゃないっすか~!! (最後の光流の口調が某高校生探偵になってしまった)